会計士の気まぐれ日記

ビジネスに関する有益な情報をお届けします。たまに思ったことを徒然なるままに書きます。

RIZAPの決算を分析してみた

先日、細野祐二さんという方の講演に行ってきました。細野さんは、私が会計士試験を終えて間もない頃に読んで感銘を受けた「法定会計学VS粉飾決算」という本の著者であり、これまで日興コーディアルグループライブドアオリンパス等の粉飾決算を暴いてこられた財務諸表分析のプロ中のプロの方です。講演の題目は、「RIZAPの財務諸表の危険性」。この講演が非常に勉強になり面白かったため自分でも改めてRIZAPという会社の決算を分析してみたんですが、分析の中で色々と面白いことがわかったので、ちょっと今日はそれを紹介してみます。

 

 

 

RIZAPの事業内容

今や日本人で知らない人はほとんどいないと言えるほどに認知度が高まっているRIZAP。みなさんも一度は、音楽にのせて肥満体型の人が細マッチョに様変わりするCMを見たことがあるでしょう。あれがRIZAPが急速に成長を遂げる起因となった「ボディメイク事業」であり、体型にコンプレックスのある方にトレーナー付きのパーソナルジムへ通ってもらうことで、理想の体型に変貌させることをメインの事業としています。しかし社名が「RIZAPグループ株式会社」に変わったのは比較的最近で、2016年7月1日に「健康コーポレーション」から商号変更をしています。もともとは化粧品や美容品の販売をメインに事業展開していたということは、意外と知らなかった方も多いんじゃないでしょうか。

 

 

しかし、今現時点で「RIZAPの事業内容は何でしょう?」と言われて「あーあれでしょ、結果にコミットさせるやつでしょ。」と答えても正確な答えにはなりません。それは、RIZAPはもはや「超」をつけてもいいほどの多角化企業であるためです。知っている方もいらっしゃるかとは思いますが、実はRIZAP、ここ数年でめちゃくちゃ会社を買収(子会社化)しまくっています。それも、ボディメイク事業や美容品販売事業とは関係ない分野の会社とかも買っているんです。最近だと、RIZAPがジーンズメイトを買収したことで少し話題になりましたよね。私自身、具体的にどんな会社を買収しているのかについてはあまり知らなかったので、直近2期間(17/3期〜18/3期)で行われた主な買収をまとめてみました。

 

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(18/3期の有価証券報告書をもとに作成)

 

普通、会社がどこか別の会社を買収するのってかなり大掛かりな作業で、時間とお金がものすごくかかるため、多くても実施されるのは年2回くらいじゃないかと思います。しかし、RIZAPは実に2年間で10社を超える企業を子会社化しているのです。なぜここまで様々な企業を子会社化しているのでしょうか??何か買収しなければならない理由でもあるのでしょうか??これについては後ほど触れます。

 

   

 

売上も営業利益も、うなぎのぼりのRIZAP

2018年3月期のRIZAPの決算説明会資料を見てみると、RIZAPが増収・増益のイケイケ企業であることが伝わってきます。「どや、これが結果にコミットっちゅーこっちゃ!!!」といわんばかりの、右肩上がりで美しいグラフが登場します。

 

 

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もう文句なしですよね。僕が投資家だったら「おっしゃ、よくやった!!」って思うと思います。売上も利益もちゃんと伸びてる、非常に理想的な推移です。では、具体的にどの事業が伸びているのでしょうか?先ほど述べたように、RIZAPはすでに多角化企業と化しており、4つのセグメントに分けて業績管理を行なっているため、セグメント別に業績を見る必要があります。以下にセグメント別の売上(外部顧客からの売上)及びセグメント利益(営業利益と思っていただいてOK)をグラフでまとめてみました。単位は百万円です。

 

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 (16/3期、18/3期の有価証券報告書をもとに作成)

 

こうして見てみると、エンターテイメントのセグメントを除き、ここ数年で売上収益が大きく成長していることがわかります(ちなみに、メインのボディメイク事業は「美容・健康関連」セグメントに含まれる)。あとのセグメントは実はそんなに利益がでているわけではないけど、住関連ライフスタイルがFY17以降で売上収益、利益ともに存在感を表し始めているといった感じでしょうか。いずれにせよ、ほとんどのセグメントで売上、利益ともに成長していることはわかります。

 

 

 

利益は出ているに、お金は増えていない??

 PLだけを見ると、収益も利益も右肩あがりになっていてもうRIZAPめちゃめちゃ儲かってるじゃん!って思われる方がほとんどだと思います。じゃあ、実際RIZAPはどれくらい儲かっているのでしょうか?本業からどれだけお金が増えているのかを検証するために、直近期のキャッシュフロー計算書を見てみましょう。

 

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 あれ?営業CFが8,700万円しか増えていない??

 おかしい。営業利益は135億円でていたはずですよね。なのに、実際にお金が増えたのはその155分の1である8,700万円金額だけ。なぜこのようなことが起きているのでしょうか?各項目を見てみると、どうやら営業CFを大きく減少させている項目として、以下が挙げられます。

 

棚卸資産の増減        :1,493百万円

②営業債権及びその他の債権の増減:4,595百万円

③その他            :7,620百万円

 

 

 

①と②は運転資本の増減と言われるやつです。例えば、商品を500円売ったとします。このとき、「3ヶ月後に払うね〜」って言われたら、BS上、売掛金が500円計上されますよね。一方、PLでは500円の売上が計上されて、仕入原価がなかったとしたらPLの利益は500円計上される。つまり、売掛金が増加した場合、お金は入ってきていないのにPL上利益計上されてしまっているので、利益から売掛金の増加額をマイナスしてあげることで実際のお金の流れと一致させてあげているのです。同じようなロジックで、棚卸資産が増加した場合はマイナス調整、仕入債務が増加した場合はプラス調整が行われます。RIZAPでは、売掛金が増加した要因について、有報上以下のように述べています。

 

 

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下着販売を行う子会社、マルコ株式会社において、自社独自のクレジットカードによる販売を始めたために売掛金が増加したと述べています。つまり、マルコ自身が発行するクレジットカードをお客さんが使うことで、売上金の後払いや分割払いが可能となったため、その分売掛金が多く計上されるようになり、お金が入ってくるのが遅くなったということです。では、③のその他は一体何なのでしょうか?上記文章の末尾を見ていただくと、「負ののれんの発生などに伴うその他7,620百万円等であります。」とあります。この負ののれんが、RIZAPの今後を注視しなければならないことを示唆しているのです。

 

 

負ののれんとは何か

負ののれんってのは、超簡単に言うと、どこかの会社を買収するときに、その買収する会社の時価ベースの純資産価値よりも安く買った場合にでてくる利益のことです。例えば、時価純資産が100億円ある会社を50億円で買うことができた場合、50億円の利益が負ののれんとして計上されます。ここでもう一度、RIZAPの買収事業一覧を見て見ましょう。

 

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負ののれんってのはあまりでてくるものではなく、どちらかというと珍しいのですが、RIZAPの買収ではかなりの場合で負ののれんが発生していることがわかります(のれんがマイナスとなっているもの)。

 

そもそもなぜ、会社の正味売却価値とも言える時価純資産より安く買うことができるのでしょうか?

 

それは、その会社が赤字続きで、今後も赤字が続くことがわかりきっているからです。じゃないと、売り手もそんな安い金額で自分の会社を売ってくれるはずがありません。RIZAPは、経営不振の企業を再建するという名目のもと、赤字が続いている会社を安く買いまくっているのです。

しかし、この負ののれんが発生することによる利益は、実際にその分のお金が入ってきているわけではありません。だから、CF計算書上この負ののれんをマイナス調整しているということですね。

お金が入ってきているわけじゃないけど、利益は計上されるという状態になっているのです。

 

 

負ののれんを出しているのは、意図的??

 RIZAPの社長である瀬戸さんは、下記のインタビュー記事で、「我々は「人は変われるを証明する」と言っていますので、「企業も必ず変われる」と思っています。自信を失った社員とか社長とか、そういった人たちが変わっていくプロセスは、めちゃくちゃ面白いし、価値があるんですよね。」ということをおっしゃっています。正直こういう姿勢めちゃくちゃかっこいいし、個人的に尊敬しています。

 

newspicks.com

 

 しかし、どうも引っかかる部分があるのも本音です。ひとつは、RIZAPが会計基準IFRSに移行しているということ。もちろん東証一部に上場して、世界中の投資家から投資してもらうという目的があってのことだと思いますが、IFRSは負ののれんが「営業利益」に計上することができるんですよね。日本の会計基準だと特別利益となる一方で、IFRSだと営業利益に計上できる。この旨味を用いることがIFRS移行の理由の中にあったのだとしたら、あまり望ましくありません。

 

 

もうひとつは、負ののれんが発生する企業買収を行っていると、負のスパイラルに陥る可能性があるということ。先ほど述べたように、負ののれんが発生するような買収では、ほぼ間違いなく赤字体質の企業を買っています。RIZAPがちゃんと経営改善を行わない限り、赤字垂れ流しの状態が続いてしまうということです。実際にこうなってしまうと、連結営業利益がその分圧迫されてしまいます。

業績が好調であり、「うちの連結営業利益は倍々に増えていきます!」という計画を謳っているRIZAPは、今いきなり「すいません、買ってきた会社が大赤字こいて、連結営業利益は減益となってしまいました。」なんてことは口が裂けても言えないはずです。そうなったら、また負ののれんが出るような赤字企業を買って利益を出し、そこが赤字になったからまた赤字企業を買って負ののれんを計上し・・・ということになってしまう可能性もあるのでは?ということです。

RIZAPはすでにこの負のスパイラルに差し掛かっている可能性があります。

 

 

 

買った会社の業績はどうなっている??

実際、 買収した会社の業績はどうなっているのでしょうか?負ののれんが大量に発生して、かつ上場会社であり決算書もみれる「マルコ株式会社」と「株式会社ジーンズメイト」の財務諸表をざっくりまとめてみました。

 

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両社とも、RIZAPが子会社化してから増収増益となっていて、一見経営再建が機能しているのでは?と思ってしまいそうになります。しかし一方で、営業CFはマイナス幅が拡大。利益は良化しているけど金は減っているという状態です。

マルコに関してはクレジットカードによる販売を始めて売掛金が大幅に増加したという事実があるものの、やはり利益とキャッシュの動きが全く整合していないので少し違和感を感じます。こういう状態になっている場合、利益を少しでもよく見せるために会計不正を行っている可能性もあると考えられます。

  

そもそも私の経験上、店舗型ビジネスで大規模な減損損失を計上しているような場合は儲かっていない店舗がかなり多いです。そのような状態で、RIZAPが子会社化してから短期間で営業利益が一気に良化している、しかし金は減っているというのはものすごく怪しい状態だと言えます。

一般に、PLは発生主義だから不正を行いやすいけど、キャッシュフロー計算書は嘘をつかないと言われます。

RIZAPの子会社も、PLはよくなっているように見えるけど実際はそうではなくて、CFにすでにひずみが出ている、ということが考えられます。そのようにPLをお化粧するインセンティブが十二分にある今のRIZAPだと、なおさらのことです。

 

 

RIZAPの運命は、経営再建にかかっている

さて、こんな感じでRIZAPグループの決算書を見ていると色々不思議な点が見つかりました。今すでに何らかの不正が行われていた場合は論外ですが、RIZAPの運命は買収した子会社をしっかり経営再建することができるか、にかかっています。

これを早期に達成することができれば、利益だけでなくちゃんと営業CFも儲かるようになるので、とにかく今は赤字企業をしっかり再建することに力を注ぐべきであると言えます。

 

もっとも、社長である瀬戸さんはそのことを一番わかっていると思います。カルビーの元CEO松本晃氏を引き抜いてこられたのも、本気で再建しようと瀬戸さんが思っているからこそのことでしょう。

一番怖いのは、このPLだけ儲かってる傾向が続いて銀行から融資が得られなくなったり、増資による資金調達ができなくなることです。

現状は営業CFが全然増えない分はほとんど銀行借入と増資でまかなっているというのが実態です。そのお金で配当も行っているので株主からの信用が著しく落ちるといったことは起きていませんが、PLの数字が悪くなって銀行や株主から資金調達を行えなくなった場合は、最悪の場合、倒産といったこともありえるでしょう。

 

瀬戸さん率いるRIZAPには、どうか粉飾決算に手を染めることなく、子会社の経営再建に邁進していってほしいと強く思う次第です。

 

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。